セイコーの部品カタログを入手した。
持っている時計のムーブメントに使われているパーツ番号が知りたくて購入したものだ。既にパーツ供給は期待できないが、修理のために必要なパーツ番号がいつでも入手できるとなにかと便利だ。

本当はこれに加え、所謂サービスマニュアルがあると良いのだが、どうもオールドにそんな便利なものはないらしい。
話によれば、ホント昔の時計はパーツ単位で時計屋に供給され、時計技師が組立て調整を行い、お客様へ販売していたらしいとの話を見たことがある。時計修理技能士ならば手順や留意事項は当たり前と言ったところか。

FullSizeRender

当然こんなものは一般の人の手に渡るものではない。部品カタログはプロのお店に修理のためにあるもので、今も多くのお店で毎日活躍している。おさーんが手に入れたのは、廃業したお店などからの流れ品だと思われる。

カタログに掲載されるムーブメントは、時代で言うと、ロードマーベルのいわゆる中期の時代からセイコー機械式のおそらく終焉まで。およそおさーんの守備範囲だ。
加えてストップウォッチや鉄道モデルなんてのも網羅されている。
マーベルや「はまぐり」がないのは残念だが、「はまぐり」は中期ロードマーベルの頁が使えるだろう。そのほか、初代GS/KSから最後まで、その他モデルを含めがっつり網羅されてたので、この先別の何かを手に入れても大丈夫だろう。

さて、このカタログは、No.1とNo.2の二分冊に分かれており、No.1は女性用、No2.が男性用。
そしてなぜかNo.1の先頭に、「索引」という章がある。索引は普通最後かと思うのだが、実はここにカタログの見方について記載がある。

おさーんはざっとNo.2の中身をみたあと、「索引」内にある「カタログの見方」を眺めていた。
おさーんはここで興味深い記載に気づく。その直後、このカタログの別の価値に気づきハッとするのであった。

「カタログの見方」に記載されている内容によれば、このカタログでは、それぞれの系譜の元となるムーブメントを「基礎キャリバー」と呼び、それ以外を「派生キャリバー」と呼ぶ。
派生キャリバーの頁は、基礎キャリバーに対し差分となる部品がわかるようになっている。

カタログの表記は、キャリバー単位で表裏で1枚程度。
表面は、キャリバー名・ペットネーム・そのキャリバーの固有部品(基礎キャリバーと異なる部品)だけが写真付きで部品番号と共に記載される。
裏面は基礎キャリバーを含む全部品の名称と品番がセットで記載される。

例えば、部品を調べようと、何かのキャリバーの頁を見たとき、それが基礎キャリバーであれば、そいつはその系譜の源流(製造上必ずしもそうでない場合もある)だ。
差分しか書かれていなくて、「他は基礎キャリバーを見ろ!」と書かれていれば、そいつは、何かの兄弟やら子供となるムーブメントだ。

FullSizeRender

※後期ロードマーベル(LMK)部品カタログ(Cal.5740A)、基礎キャリバーが別にある(Cal.560 21石)と記載されているため、このキャリバーがクラウン 21石の派生キャリバーであることがわかる

つまり、このカタログを丹念に見ていくと、セイコーの機械式ムーブメントの系譜や流れがわかるのである。
何をベースに何が出来たとか良く記事では見るが、普通中身は見られないので、確認もせず他人から見聞きしたものをそのまま使いまわすのは常套手段。だが、このカタログがあれば、それがまことかウソかわかるのだ。

なお、基礎キャリバーは部品特定上の定義なので、あるムーブメントをベースに別のあるものを作った場合など、基礎キャリバーがいったん途中で再定義される場合もある。だが、これも写真と発売された年代を見比べれば、途中で基礎キャリバー再構成されたとしても、ある程度系譜を推測もできる。

うーむ、これはいかん。面白過ぎる。写真付きってのがこれまた。
おさーんはコレに気づくと、面白過ぎてカタログを見るのがやめられなくなってしまった。

どんなものか知りたい方は、「セイコー部品カタログ」とでも叩いて、Google先生に聞けば画像が見られるだろう。セコい転売屋がページ単位でヤフオクに流している名残が見られる。

さらにもっと実用的な活用方法もある。

「もしも」の場合に備え、部品が入手できない可能性のあるオールド時計を楽しむ場合、同型ドナーを手に入れておくのは紳士のたしなみだ。

だが、基礎キャリバーがわかれば、同型個体以外の流用方法を知るのも簡単。共用部品の特定も簡単。
場合により、「え?これが基礎キャリバーなの?」なんてことがあるとコレは楽しい。
わざわざ人気の高い同型ドナーを手に入れなくとも、もっと安い共用ドナーが使えることもあるわけだ。何が使えて何が固有部品なのかもネジ1本単位で一発検索一目瞭然。

なんとムフフなことであろうか。そして、それはこのカタログを持つものだけの特権なのだ。

このカタログ、おさーんにとっては単なるパーツリストではなく、立派に資料と呼べる価値がある。入手にそれなりの大枚をはたいたが、気づけばなんとまぁ、おさーんにとってはかなりの価値ある逸品だった。時計屋さんはいつでもこんなもの見れたんだ。なんとうらやましい。

そしておさーんはこう思う。No.2だけではやはり片手落ちである。No.1の「索引」は、なくても想像で推測は可能だろうが、これはこれでなかなか興味深く捨てがたい。

だから、入手は2冊セットが合言葉だ。

だが、入手はなかなか困難だし、全部揃っている保証もない。
運悪く「索引」が抜かれていたらご愁傷様である。

なお、このカタログ、時計のカタログではなくてムーブメントの部品カタログである。時計が掲載されているわけではないし、ケースや風防など外装パーツは掲載されていないので念のため。