44キングセイコーに搭載されたムーブメントは、見たところキングセイコー ファーストに搭載されたもの(ベースはクロノス)を改良したもののようだ。見た目はかなり似ており、ファーストがベースになったことは明らかだと思う。まぁ当たり前なんだろうけど。

※参考画像:キングセイコー ファーストのムーブメント画像
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このムーブメントの最大の改良点は、秒針規正が付いたこと。キングセイコーに秒針規正を付けて、ケースデザインをリニューアルしたのが基本的な44キングセイコーの成り立ちなので、ペットネームはまんまそのまま「キングセイコー 規正付き」である。なんたるド直球なネーミング。
そして、この秒針規正を行う部品が、いわゆる「カマ」と呼ばれるパーツ。まぁ写真を見ればわかると思うが、このパーツ、カマ以外の何物でもない。

※44KSノンデイト(カマ付き)のムーブメント画像(ヤフオク商品画像より転載)
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また、これも見てもらうととわかるが、このカマ、どう見たって真ん中から折れたり、曲がったりしそうである。
実際カマ付きはこうした故障が多いらしい。すでにパーツもないので、壊れた場合は、ドナー移植か諦めるかどっかで探して一点モノで作るか(作れればだけど)。
なお、壊れた場合は当然秒針規正が無くなる。だが、実のところそれ以外の弊害もなさげなんだなこれ。よってそれはそれでと割り切ってしまうのもありなのだが、「キングセイコー規正付き」というペットネームが、「キングセイコー規正なし」になってしまうのはやはり由々しき事態か。

たまにヤフオクなどで、このカマが真ん中からポキンと折れていたり、カマそのものを豪快に取っ払った、「キングセイコー規正なし」が出品されていたりする。こういうのは判断もわかりやすくて良いが、以外の場合で44KSカマ付きらしき個体を狙うときは、あらかじめ「秒針規正はちゃんと動くか」を確認したうえでの参戦をお勧めしておく。

なお、この「カマ」付きムーブメントにはまだキャリバーナンバーがなく、ムーブメントに機械番号が刻印される。上記画像の初代と44KSのムーブメントに刻印されているのがお分かりだろうか(44KSは黒く塗りつぶされている部分)。
この時代のセイコーでは、高級品や特別なムーブメントに機械番号が刻印されている。最初に刻印が始まったのは、ロードマーベルのムーブメントからだと思うが、この刻印の有無で高級ムーブメントとして位置付けられているかどうかがわかる。
高級機というか、高精度機として、機能的なところももうひとつあげておこう。
テンプの上にある調整機構がわかるだろうか。そのまま画像下に向けて、矢印のようなパーツが見えると思う。その先は目盛りとなっている部分。これ、微動緩急針。通常の緩急針をさらに微調整できるように設置されたもの。これが最初に実装されたのは、グランドセイコー・ファースト。そして、以降も限られた時計にしか実装されていないのだ。手巻時計では、GS・KS・ロードマーベル後期くらい。どれもセイコー最盛期の高級機だが、セイコー自身もそうした機種にのみ搭載した機能と思われる。
よく、クラウン・スペシャルやクロノス・スペシャルなども含め、どれが高級?とか、順位付けは?といった話を見るが、こうした機能や機械番号・部品加工などから見ると、やはりGS・KS・ロードマーベルの3つのシリーズは、セイコーにとって特別なシリーズであろうと思われる。

◆前期ノンデイト
カマ付きを搭載するノンデイトモデルは3種類ある。上2つが上記写真のカマ付きを搭載する。最後のひとつは27石の特別なカマ付きムーブメントを搭載するモデル。
  • Ref.44-2000(KSK)(AGF・非防水):キングセイコー規正付き
    キングセイコー ファーストにとても良く似た時計、AGFはこれのみ、盾メダリオン

  • Ref.44999(KSK)(SS・防水):キングセイコー規正付き
    防水型、盾メダリオン

  • Ref.4420-9990(KSCM)(SS/GC・防水):44キングセイコークロノメーター
    27石のCal.4420を搭載する特別なモデル、歴代キングセイコーの中で最も人気が高く高価、グランドセイコーと同様の獅子メダリオンが付く

    ※44キンクロのカタログ画像
    1966No1_KSCM
    ※1966年 「セイコー ウォッチカタログ No.1 増補版」より引用
    ※最高級品のページにGS 2nd、マチック・クロノメーターと共に掲載の中から抜粋

◆後期ノンデイト
カマ構造に対し、さすがにこれはマズイとセイコーは思ったか、ムーブメントに改良が施されカマが無くなる。この改良版ムーブメントから、ノンデイトにはCal.44Aというキャリバーナンバーが付けられた。一般的にこのカマ無し搭載モデルが後期型と呼ばれているようだ。Cal.44A搭載モデルは以下2つ
  • Ref.44-9990(KSK)(SS・防水)
    前期型(Ref.44999)とは見た目にほとんど差が無く、文字盤とインデックスが少々異なる程度

  • Ref.44-2000(KSK)(AGF・非防水)
    前期から発売されていたが、ムーブメントがCal.44Aに切り替わり、そのまま同型番でモデル末期まで継続販売された
なお、カレンダー含む後期44KSのメダリオンは、盾ではなくなり複数の種類がある。

◆カレンダー
44キングセイコーは秒針規正同様、カレンダーが搭載された最初のキングセイコーでもある。
  • Ref.4402-8000(KSSK)(SS/SGP・防水):キングセイコーカレンダー
    カレンダー付きのムーブメント、Cal.4420を搭載するモデル、Cal.4420にはカマが付いていないことから、Ref.4402-8000は後期から追加されたものと思われる

◆モデル末期の44KS
時代的に見て、この44KSまではまだモデルの種類も少なく、シリーズ構成を追いかけるのも楽だが、これ以降は様々なバリエーションが増え、資料も少ない現在において、バリエーションを拾うのは困難になる。良くも悪くも44KSの時代くらいまでが、古き良き時代と言えるのかもしれない。
なお44KSは、最終的にRef.44-2000、Ref.44-9990、Ref.4402-8000の3つがモデル末期まで販売された模様。

JDMCatalog1968No2
※「セイコーウォッチ カタログ '68 No.1」より転載。'68 No.2追補版からは45KS・56KSにラインナップが切り替わる。68年時点で「手巻きを好まれる方に・・・・」という記載がカタログにある。この時点で、既に手巻はニッチな市場性であることが伺える。Ref.44-9990とRef.44-2000の後期型には、文字盤に亀戸のマークが入っている。

44KSはプラ風防なこともあり、ビン底メガネのようにやや古めかしいデザインだが、ラグは太くて力強く、その後のセイコースタイルとも若干異なる。
割と現存数も多く、今でもよく見かける。そして、ファーストモデルに次ぎ、おさーんが大好きなキングセイコーなのである。