前回記事で力尽きた、ロードマーベル後期の補足である。
ここで再度ロードマーベルの系譜について図を載せておく。

loadmarvel

前回記事では、後期ロードマーベルについて、上記分類に従い概略を記載した。
今回は、上記分類とはまた少し変わった視点で、後期ロードマーベルの詳細について、ロードマーベルをこよなく愛するおさーんの思いも込め、熱く語ってみようと思う。

というわけで、まずは再度ムーブメントを整理し、次にモデルコード・文字盤で分類してみることにする。
では行ってみよう。

◆後期ロードマーベルのムーブメント

繰り返しになるが、後期ロードマーベルのムーブメントは、良く知られているようにクラウンのCal.560をベースとしたものに切り替わっている。元々クラウンのムーブメントは、マーベルのものを大型化し、精度を高めたもの。このため、マーベルベースでスタートした中期以前のものと比べ、後期のムーブメントは大きい。金属の塊である地板が大きいので、実際に着け比べると、後期は結構重かったりする。
ムーブメントは以下の3種類となるが、主な違いは振動数と秒針規正の有無である。
  • Cal.5740A 振動数:18,000回/時   (5振動)秒針規正付き 機械番号あり
  • Cal.5740B 振動数:19,600回/時(5.5振動)秒針規正付き 機械番号あり
  • Cal.5740C 振動数:36,000回/時 (10振動)秒針規正なし 機械番号なし
後期ムーブメントは当初はCal.5740Aでスタートし、途中でCal.5740Bに切り替わる。Cal.5740Cはロードマーベル36000(以下ハイビート)専用と言ってもよい。

なお、Cal.5740AとCal.5740Bには、ロードマーベルでは初となる秒針規正が付くことが目を引くが、ムーブメントそのものの造りにおいて、Cal.5740シリーズすべてに微動緩急針が付いたことは、実のところそれ以上のトピックかと思う。

◆微動緩急針の意味

セイコーの腕時計において、微動緩急針が最初に付いたのは1960年発売のグランドセイコー。その後発売されたキングセイコーにも実装されたこの機能は、歩度を秒単位で追い込むための機能である。
裏を返すと、これが付くムーブメントは、素性として精度が出せる優れた機械ということになる。

だが、実のところ微動緩急針自体は、セイコーが初めて実装したわけでもなく、特に新しい機能というわけでもない。
おさーんの知る限りでも、グランドセイコー発売の60年以上前、今からで言えば120年以上前のアメリカ製の懐中時計、特に鉄道時計規格に認定、或いは準拠している時計には普通に実装されていた機能だ。その方式でメーカー各社がパテントを取得し、カタログにその優位性を列挙していた。
パテントをざっと見ると、古くは1860年代後半から記録があるので、グランドセイコー発売の100年近く前から実装が進んだ機能と言える。

もとより精度が絶対価値のこの時代において、時計における高精度は高級と同義だ。当時の高精度な時計はハイグレードであり、例外なく微動緩急針を実装していた。
言い換えると、微動緩急針が付いたムーブメントは、メーカー側にも明確な意志が込められているということである。

服部時計店は元々時計修理を生業としていた。また、時計の輸入も行っていたらしいので、当然この時代のこうした機能や、その意味は知っていたに違いない。

こうした状況を鑑みると、クラウンのムーブメントをベースとし、秒針規正と微動緩急針を実装したムーブメントを搭載する時計に、「クラウンなにがし」ではなく、あえてロードマーベルという銘を使ったセイコー。さらにその後、セイコーは国内初の高振動機を搭載する時計にもロードマーベルの名を与えたのである。この事実に、当時のセイコーの「ロードマーベル」という名前に対する思い入れが感じられるのはおさーんだけではないだろう。

ロードマーベルが発売されていた時代も、懐中時計のころと変わらず、時計そのものの絶対価値は精度である。
その最高峰として、グランドセイコーやキングセイコーが発売されたことで、ロードマーベルは高級機の看板を下ろし、準高級機に位置付けられた。加えて、準高級機には、クラウン・スペシャルやクロノス・スペシャル他、新たに発売された高精度・高機能な時計が目白押しであったこの時代。

ロードマーベル後期の販売時期はそれより少し後にはなるが、微動緩急針が実装されるロードマーベルは、他の時計とは違う立ち位置にいたことは想像に難くないと言い切ってしまうおさーんであった。→どんだけロードマーベル好きやねん

※以上はおさーんの妄想と熱い思いが入っているので眉唾スルーで、信用して人に触れ回っていけませぬ。

◆モデルコードと文字盤で分類してみる

与太話はこのくらいにして、次にモデルコードと文字盤(見た目)で分類してみる。モデルコードを先頭に持ってきたのは意図的である。

モデルコード 文字盤 モデル ケース 防水 キャリバー
Ref.5740-1990 000000011307_gbni9wH
ロードマーベル AGF/SS/18K 非防水
Cal.5740A
Cal.5740B
Ref.5740-0010 000000011918_QWESKPM
ロードマーベル SGP/SS 防水
Cal.5740A
Cal.5740B
Ref.5740-8000 000000010024_SsmiiDA
ロードマーベル SGP/SS 防水
Cal.5740B
Ref.5740-8000 l541447211.1
ロードマーベル SGP/SS 防水
Cal.5740B
Ref.5740-8000 000000009067_66Vbbhu
ロードマーベル36000 SGP/SS 防水 Cal.5740C
Ref.5740-8000 000000010591_sYOznm9
ロードマーベル36000 SGP/SS 防水 Cal.5740C
※Ref.5740-8000のロービートはCal.5740B以外にもCal.5740Aが搭載されていrたものがあるかもしれない。とにかくサンプル数も多くなく、たまたま見たものがCal.5340Bだけだったかもしれない
※上から4つ目の時計はオークフリーからの引用
※以外の画像およびリンク先は全てスイートロードのホームページより引用
※モデルコードをクリックすると、商品紹介ページにリンクします


後期モデルはロードマーベルでは初となる秒針規正。微動緩急針に加え、防水ケースがラインナップされているのも特徴である。防水ケースはハイビートを除き、どれも漏れなく裏蓋がタツノオトシゴだ。(裏蓋の仕上げは2種類あったっぽい)
なお、以前書いたように、ハイビートは1966年と1967年の途中までがタツノオトシゴ裏蓋になる。

◆Ref.5740-8000がこれまた

ハイビートのモデルコードは、これまで幾度も書いてきたようにRef.5740-8000である。だが、Ref.5740-8000というモデルコードで整理すると、ロービートとハイビート両方がラインナップされているのだった。なおこの話、トンボ本にちらりと出てくる既知情報。

文字盤は4種類あり、アラビア数字・バーインデックス双方の文字盤も、ロービートとハイビートで激似となかなかややこしい。
だが、今ハイビートから見ればそう思うだけで、国内初の高振動機発売にあたり、ロードマーベルの銘を継承することから、従来のケースをそのまま使い、文字盤もロービートに似せてリニューアルしたと考えるのが妥当だろう。

なお、現在も後期のロービートのアラビア数字文字盤は人気の逸品。これとにかく数が少ない。加えて、この文字盤の塗装は防水ケースをものともせず、非常に劣化しやすいようだ。
よって、もしキレイなものが出てきたときの価格は、常にハイビートを超えるレベルで高騰する。昨今の値上がり傾向もあいまって、その価格はさらに高くなりつつある。

それにしてもだ、並べてみるとわかるハイビートのデザイン性の高さよ。
デザイン性だけでなく、視認性もピカイチだ。当時からすると、その洗練度合いはかなりのものだっただろう。
さすがは11年に渡り販売されただけのことはあり、かつ今なお高い人気を誇るだけのことはある。いやマジで魅力の高さをあらためて認識するおさーんであった。
国産オールドコレクターなら、これに限っては人気があるからと敬遠せず、アラビア数字とバーインデックスを共に押さえておくのは紳士の嗜みと言っても過言ではあるまい。幸いに、程度の良いものも未だ数多く残り、今でも価格はまだお手頃だと言えるレベルだ。
というわけで、おさーんも合間を見つつバーインデックス入手に向け絶賛参戦中。→ある意味いつでも入手可能なのでさほどマジメにやってない

◆Ref.5740-1190の華麗なる復活劇

Ref.5740-1190は当初AGFとSSでデビューした。ロードマーベル最後の金張りで、非防水タイプのケースを纏うモデルである。以降防水ケースに採用されたSGPはいわゆる金メッキだ(GOLD PLATE)。
というわけで、ロードマーベルでは、「はまぐり」以降ラインナップされてきた18K無垢ケースが、ここにきて途絶えていたのだった。

そしてRef.5740-1190は他防水モデルの普及とともにそのまま型落ち。ラインナップから姿を消す。
その後1~2年後、ハイビートが発売され、ロードマーベルからロービートがカタログ落ちするその時、突如Ref.5740-1190は復活を遂げる。
なんと最後のロービートとして、18K無垢ケースを纏いごく短期間発売されたのだ。
これが後期の18K無垢モデルである。

というわけで、以下はその当時のロードマーベルのラインナップ。すでにロービートは金無垢以外すべて型落ち。金無垢ロービートがハイビートと並んで掲載されている。金無垢だけに、価格が強烈なのである。

1968v1_LMK catalog
※1968年発刊の「セイコー ウォッチカタログ '68 No.1」の手巻グループの頁から引用

このカタログは1968年発刊の「セイコー ウォッチカタログ '68 No.1」。1968年 No.1で掲載された18K無垢は、No.2にはもう掲載されていない。最後の豪華絢爛なロードマーベルなのである。
その高価な価格と販売期間から見て、販売数量は相当少なかったはずだが、現在でも探せばないわけではない。ただ18K無垢なので、中身の状態がどうであろうと常に高額。何しろゴールドは貴金属類の中でも絶賛高騰中である。

◆Ref.5740-0080もあるぞ(番外編)

ロードマーベルではないので上の表に掲載していないが、Ref.5740シリーズにRef.5740-0080というモデルがある。これ、Cal.5740Cを搭載したハイビート懐中時計。当時のカタログにもちゃんと掲載される、れっきとしたプロダクションモデル。
おさーん、この時計にはかなり早い段階で気づいていた。どうせ懐中なんて人気ないだろうと考え、ハイビートのドナーキャリバーにこれを狙っていた。ところがだ、数が少ないのか、懐中人気に引っ張られるのか、これがかなりいい値段するのである。しかも懐中だから、どれも結構状態がすこぶる良い。

◆というわけで

さて、ロードマーベル36000だが、現在はロードマーベル(ロービート)とロードマーベル36000(ハイビート)は明確に分けて記載され語られる。当り前だわなそりゃ、ハイビートは文字盤にもキッチリ書いてあるしムーブメントは高振動機だし。

だが、当時のカタログを見ると、ハイビートが売られていた11年の間、ぢつは「ロードマーベル36000」と商品名に記されたことは一度もないのだ。もっと言うと、ハイビートだろうが初期だろうが後期だろうが、20年間を通してカタログに記載された商品名は、常に変わらず「ロードマーベル 23石」これだけである。
ま、現代の我々が今の常識で、後付けで好き勝手に分類しているだけの話ってことだ。

GSやKSだけでなく、ロードマチック等にラインナップされた高振動機は、その機能性からカタログ上に「ハイビート」と記載された時期があった。これに倣い、ロードマーベル36000のカタログに「ハイビート」と書かれていた時期は確かにあるのだが、これは単なるスペックの記載であって商品名ではないのだ。

というわけで、ここまでおさーんの勝手な推論でロードマーベルの系譜を3回に渡り記載してきたが、まぁ多少考えが違ってたり、誤りがあったとしても、結局何もかもすべて、現在考えられる範囲での後付け理論に過ぎないわけである。これ、おさーん以外の記載全てにおいても例外はない。
だからまぁ、深く考えたりしてもさほど意味はなかったりするということで、生暖かい目で見ていただければと思う。
誰がどう語ろうと、それはどう転んだところで、所詮後付けのウンチクを超えられないのが定めである。というのも、なにせ造ってるメーカーが、どれも全部ロードマーベルで、特に区別なしって当時のカタログで言ってるんだから。

おあとがよろしいようで。

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補足:微動緩急針が実装された時計
オールドセイコー(多種多様な製品が乱立する60年代中盤位まで)において、微動緩急針が実装された時計は非常に少ない。
グランドセイコー、キングセイコー、ロードマーベル後期を除くと、手巻きではライナークロノメーター、自動巻ではマチック・ウィークデーター(35石・39石)とマチック・クロノメーターくらい。
オールドセイコーは、マーベル以降どれも一定の精度を保ち品質も良いが、ムーブメントの造りやその位置づけは、装飾などとあわせ、実はこうした造りにも表現されている。多分よく中を開けてる時計屋さんは、こうした事情をよく知っていると思う。

※後期ハイビートのへんなもの
ロードマーベル36000にCal.5740Bが搭載されたものオークションで見たことがある。それも別個体で複数個。さすがに野生の時計師によるまがい物な可能性が高いので記事には記載していないが、真偽はともあれそうしたものも現存していたりするのがめんどくさい。今回のように、状況証拠であとから整理する場合、こうした「普通に考えてありえないもの」の取り扱いが悩むところ。