とある日、Amazonを覗くおさーん。久しぶりに時計工具でも見るか。
おっとその時ハケーン!なんとスクリューバックオープナーの価格が20%も下がってるでないの。
これはチャンスだポチッとな!

いわゆるスナップバックのコジアケは以前から持っていたのだが、スクリューバックオープナーは持っていないおさーん。収集メインはノンデイトの古い時計ばかりなので、その時計のほとんどはスナップバックだが、ロードマーベル後期(クラウンベース)やハイビート(ロードマーベル36000)と、ほとんどのキングセイコーはスクリューバックだ。このため、これまでスクリューバックの時計はムーブメントのご開帳がままならなかった。

これを買っておけば、スクリューバックも開けられるわけだ。つーわけで、翌日さっそく届いた側開閉器(こんな名前なのね知らんかった)。さすがにベルジョンは手が出んが、今回は日本製の明光舎だMKSだ。

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これ、まともに買うと結構するんだよね。助かったわ安くなってて。
箱から出してみると、ちゃんと検査シール貼られてますね。さすがちゃんとした時計工具だな。ずっしりとしてて、肉厚な工具だ。

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というわけで、せっかく手に入れた側開閉器。これを早速使ってみようというのが今回の企画。
今回は、一度実際の中身を見てみたかったキングセイコーで行ってみよう。

ちょうどプラケースに入ってたキングセイコーを取り出すおさーん。今回のご開帳サンプルはこいつでどうだ。10振動のCal.4500Aを搭載する、亀戸製高振動機の45キングセイコー。モデルコードRef.45-7001だ。

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この時計はさー、もしかするともしかするのが混ざってるんだよね。だから一度開けてみたかったんだよね。44KSのカマも見たかったのだが、先に45KSを選んだのにはこうした理由もあった。
というわけで、側開閉器の開封後、さっそく持ってる台座に時計を固定し、側開閉器の爪を合わせてクイっとな。

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おぉ、これはまたあれだねぇ。亀戸なんでご先祖さまはクロノスなのかもしれないけれど、なんつーか、クロノスからここまで離れると面影はないな。唯一、クロノスの特徴であるテンプ周りに影響があるかといった感じ。クロノスのテンプ受けは、片持ちではなく両受けのブリッジ構造。45KSも直線基調の両受けブリッジであることが見て取れる。まだクロノスっぽい44KSなどと比べるとかなり様子が異なるムーブメントだなこれ。そしてさすがの高級機、微動緩急針もあるようですな。でもこれ、ネジ回して動かすんか?。
また、中身はしっかり綺麗ですね、まぁ日差少なく動くしねこいつ。裏蓋は、モデルナンバーにJAPAN刻印とAか。Aってなんじゃろな?

さて、というわけで、ムーブメントを拡大してみよう。

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ブリッジ回りは加工しやすいよう直線を基調に作られてますな。磨きや飾りの類は見受けられないが、それでも香箱側歯車に溝加工が入っているのが、僅かにその素性を物語る感じか。残念ながら、機械の造りは既に工業製品。残念なのがこういうところだ。セイコーは昔から各国の高級時計見てるんだから、高級機の造りもちゃんと真似て差別化施しておけば今みたいな事態にならなかったと思うんだが。まぁ現在の感覚でモノを言ったところで是非も無しか。

横道は置いといて刻印だ。実はおさーんが見たかったのはまさにこれなのだ。
黄色に光り輝く刻印は、搭載石数とSEIKOロゴに加え4500A刻印のキャリバーナンバー。
そして!さらにさらに!ぐふふふふふ、ぐわはははは!

勝った!おさーんは勝った!
キタわこれ機械番号。まさにビンゴだこいつはきゃほきゃほー!。

さて、オールドセイコーのムーブメントに刻印される機械番号だが、これまでさんざん書いてきたように、所謂高級機として特別なムーブメントに刻印されるナンバリングが機械番号だ。これが刻印される時計はロードマーベルが最初だが、以降もグランドセイコーやキングセイコーに機械番号の刻印が行われてきた。(おさーん自動巻系はあまり知らんので手巻きのみ書いとく)

だが、時代の移り変わりにより刻印されるムーブメントにも変化が起こる。ロードマーベルから機械番号が無くなったのはハイビートから。だが、普及機になったのかといえばそうでもなく、ハイビートには微動緩急針が実装されていることから、立ち位置は変わらぬ立派な高級ムーブメント。
では、機械番号はどうなったのかというと、より上級というか、特別製のムーブメントのみに付けられるようになったのではないかとおさーんは考えている。

というのも、キングセイコーでは44KSまでは普通に刻印されていた機械番号だが、実のところ45KSでは、ロードマーベル36000同様、通常モデルに機械番号は刻印されていないのだよこれホント。
とすれば、なんでおさーんの45KSに機械番号が?という話だが、その前にこの時代の機械番号について触れておこう。

特別な機械に刻印される機械番号、じゃ特別製ってなんなの?という話だが、ほらほらあるでしょこの時代の特別製が。詳しい人は先刻ご承知だろうが、いわゆる「クロノメーター」と呼ばれる製品群である。44KSで限定的に販売されたクロノメーターは、45KS以降は上位モデルとして通常ラインナップ販売されていたのはご承知のとおり。これが特別製の機械というやつだ。クロノメーター級精度を持ち、クロノメーターとして販売されたのは初代グランドセイコーが最初だが、この時代のクロノメーターはセイコーが勝手に名乗ってただけだった。こうして勝手に自称クロノメーターがいくつか販売されたわけだが、そのうちクロノメーター協会から、「認可も受けずに勝手に名乗ったらダメだがね!」と怒られた。よって以降はちゃんとクロノメーター検定に通ったものだけにこの称号が付けられるようになった。国内メーカー各社も同じだろうと思う。

つまり、この時代の機械番号は、クロノメーター検定用機械に刻印されているのだった。45KSで言えば、特別調整され検定に通った証として、ムーブメントに機械番号が刻印され、文字盤にクロノメーター表記された上で、45KSクロノメーターとして販売されていた。

というわけで、おさーんの持ってる素の45KS、通常ならないはずの機械番号があるということは、クロノメーター用ムーブメントが搭載されていると。いやこれラッキー以外の何物でもないでしょ。

なぜ通常機にしれっとクロノメーター用ムーブメントが搭載されたかという話だが、まぁ元々精度が良い45KSはクロノメーターがあまり売れず、余った機械の在庫処分品なのではというのが噂である。
まだ高価であっただろうが、精度で言うなら既にクオーツも発売されていたのがこの時代。機械式の高精度つーてもクオーツあんのに何言っちゃってんだかと、機械式自体がオワコンに近づきつつあった頃だ。
というわけで、発売当初の無印45KSムーブメントには機械番号が当然無いのだが、それから少し後に生産された無印45KSに、在庫処分クロノメーター用ムーブメントが紛れ込んでいるらしい。

このあたりの事情は、以下の記事などで事情が伺えるのである。もったいぶってダラダラ書いたが、有名な既知情報である。まぁ一度読んでみてほしい。
いやーこれラッキーだったわホント。だが、Cal.4500Aで画像検索してもらうとわかるのだが、無印45KSにクロノメーター用ムーブメントが搭載された個体は意外と結構見つかるのだ。よって、レアというわけでもないらしい。もしかすると、ある一定の期間は何買ってもぜーんぶどれでもクロノメーターみたいな幸せな話があったかもしれない。→いつもの勝手な妄想炸裂

ただまぁ、機械はクロノメーター用というだけで、そのすべてが検定を通っているのかどうかはまた別のお話。
検定はムーブメント単体で通すはずなので、一定量作って調整後にまとめて検定を受け、通ったものに刻印付けたと考えるのが普通な気もするが、そのあたりはきっと闇の中だろう。
とはいいつつ、「無印買ったら中身がクロノメーターでござるよ」という事実に、鼻の穴も膨らむおさーん。あまりに嬉しいおさーんは、これ以降この時計の詳細に「クロノメーター機搭載」と注釈を打つことにしたのであった(笑)

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セイコー 45キングセイコー(規正付き)
製造年月:1971年7月
モデルナンバー:Ref.45-7001
キャリバーナンバー:Cal.4500A(手巻)
ペットネーム:45KSM ※クロノメーター機搭載
(通常のノンデイトムーブメントのペットネームは45KS)
石数:25石
振動数:36,000回/時(10振動)
ケース:SS
文字盤:AD