さてさて、修理に出したSSはまぐり弐号機。首を長くして待つこと2か月かと思ったら1か月で戻ってきた。なのになぜ1週間で記事化できたのかというと、修理に出したのがもっと前だからだ。
とどのつまりはこのような次第である。
実は、前回記事で記載した出来事は2年以上前のお話。実際には2020年2月のとある日、時計を持ってお店に訪問し、修理&リダンをお願いしたのだった。
それはちょうど、世界を巻き込んだコロナ渦直前のお話だったのだ。ほどなく国内に1回目の緊急事態宣言が出て、未曽有の事態となったのは記憶に新しいところ。
リダンは韓国の業者へ依頼するとのお話を聞いていたが、当時彼の国は日本より慌ただしい状況であり、業者と連絡がつかなくなってしまったそうである。
その後暫く時計をお預けしていたのだが、連絡取れずの状況は変わらなかった。結局預けてから5か月後の2020年の7月中旬に、時計はそのまま手元に戻ってきたのだった。
それから4か月ほど経過した2020年の12月中旬、ようやく業者と連絡が付くようになり、リダンが再開できるとのご連絡をいただいた。すぐさまお願いするとともに、時計を送った。
その後修理とリダンに1か月。キレイになって手元に戻ってきたのが、2021年の1月下旬というわけである。
時計を預けて数日、オーバーホール作業の状況をご報告いただいた。この時計、龍頭が抜けてしまう症状だったのだが、分解してみると巻芯の裏抑えが折れていたそうだ。ここよく折れるよね。
部品を交換後、洗浄注油を行い組み立て完了。錆もなく精度も問題ないとのことだった。
OHが完了し、文字盤待ちの状態での途中経過をご覧いただこう。

文字盤側から見たオーバーホール前のムーブメント。右下にある大きな金具が折れた巻芯の裏抑え。加えてところどころムーブメントに汚れが目立つ。

文字盤側から見た洗浄後のムーブメント。あらまぁなんてキレイなんでしょう。裏抑えを見ていただくと、折れていた個所がわかると思う。この部品は入手ができるらしく、お店で手配いただいたようだ。

裏蓋側から見たムーブメント。オーバーホールが終わった状態がめっちゃキレイ!。この時文字盤は韓国でリダン作業中。だが、この時点で既におさーんはルンルンであった。
というわけで前置きが長くなったが、この作業報告のあと、SSはまぐり弐号機は結局どうなったのか。ではどうぞドドン!。

※画像が暗かったので明度をあげています
ぬぅお!こんなキレイになったか!!。ロゴとかまんまだ。これは素晴らしい。
だが、3か所ほど気づいた点がある。
ひとつ目、石数の文字が小さくなった。どうでもいいといえばどうでもいいが、ある意味おさーんが拘ってきた部分でもある。まぁ「はまぐり」もマイナー前はこの大きさなのでこれ自体はさほど違和感はなく、自分で使うから問題ないか。
おそらくだが、この業者、ロードマーベル用の印刷用型を持っているのだろうと思う。その型の数字が小さいのだろう。SD文字盤マークの出来も良いし、ロゴの書体も数字の大きさを除けばよく出来ているのが幸い。

※画像が暗かったので明度をあげています
二つ目、写真ではわからないが、文字盤の銀の色味が強い。本物はもう少し白に寄っている感じ。まったく同じようになるとは当然思ってなかったのでまぁいいか。
三つ目、書体の再現度はよく出来ていると先に書いたが、6時上の文字表記部分の文字がやや太い。
これは気付きにくいがリダンの痕跡が出やすい顕著な部分だ。これはある意味どうしようもない部分なので、リダンとはそういうモノだと思う事にしている。
今のリダンは文字盤の写真を撮り、これにイラレ(Adobe Illustrator)などを使い画像修正を加えたものをベクタライスしてCADの版下データを作る。これを元に銅板にレーザーで文字盤のデザインを彫刻して印刷用の型を作る。多色になる場合は、色ごとにこの工程を繰り返し、1枚づつ印刷型を作るわけだ。
文字盤はインデックスが取り外され、洗浄され塗装が落とされる。乾燥後に下地処理を行い、文字盤色の調色と塗装が行われる。
文字盤の下処理ののち、型へインクを乗せ、タンポに写し取りパッド印刷でロゴその他を印刷。多色の場合は、1色毎に繰り返し印刷を行う。
最後に取り外したインデックスなどの部材を組み立て、漸く完成である。
実際に文字盤のパッド印刷の動画がYoutubeに転がっているので引用しておこう。
リダンはこんな手間がかかるので当然費用は高くなる。時計製造における文字盤製造の工程と何一つ変わらないからだ。
同じ文字盤を印刷するなら型は1つ作ればよいのでコストを下げられるが、1つの時計のために1つづつ型(しかも同じ型が二度と使用できるかどうかわからない)を起こすとなれば、結構なコストがかかるのも理解いただけるだろう。
当然カメラ・各種ソフトウェア・ハードウェア(レーザー彫刻機・塗装に関わる器具)の設備費用も割り戻されてコストに組み込まれる。文字盤色も1枚ごとに人手で調色と塗装が必要。
話を戻すが、型を作る際にレーザーやフライスでは細い文字の彫刻が難しいため、どうしても文字が若干太めになる。特に筆記体などの線が細いものに顕著に現れる傾向がある。これが繊細な筆記体などの文字が太くなる理由。
元の文字盤に繊細な文字が使ってあると、こればかりはどうしようもないのが実情だ。
昔は型の作製を全て手彫りで対応しており、細い刃物と力加減で問題無かったのだろう。勿論企業では今でも手彫りで行う事もあるかもしれない。ただ、個人の一点モノの作業ではとても無理なお話しである。
というわけで、三つほど不満な箇所を述べたが、一番気になるのは文字版色の件か。ロードマーベルを持っていて、現物をよく見ている人が見れば一発でわかる程度に違っているのと、ロゴの出来が良いだけに寂しいが、まぁこんなもんだろな。何せ値段が値段だし。
また、ここは改善もし易いところだ。もし次にお願いすることがあれば、気を付けてもらうこともできる。
リダンの結果はこのような感じだが、時計そのものは龍頭の裏抑えを交換したこともあり、とてもカッチリとした引き心地。併せて整備の結果、平均日差は+15秒だそうだ。
うん、これでこの時計も実用できるぞ。ありがたやありがたや。
実用時計としてはまぐり弐号機復活!
リダンも経験出来た。出来は最初に思っていた通りの結果に近かった。酷いものもよく見るが、文字の印字そのものに於いては思ったよりクオリティは良かった。
全体の出来としてはまた別の評価となるが。今後は適材適所で利用してみたい。
----
セイコー ロードマーベル(はまぐり弐号機)
製造年月:1960年9月
モデルナンバー:LM-2
キャリバーナンバー:なし(手巻)
ケースナンバー:J14038
ペットネーム:なし
石数:23石
振動数:18,000回/時(5振動)
ケース:SS
文字盤:SD
とどのつまりはこのような次第である。
実は、前回記事で記載した出来事は2年以上前のお話。実際には2020年2月のとある日、時計を持ってお店に訪問し、修理&リダンをお願いしたのだった。
それはちょうど、世界を巻き込んだコロナ渦直前のお話だったのだ。ほどなく国内に1回目の緊急事態宣言が出て、未曽有の事態となったのは記憶に新しいところ。
リダンは韓国の業者へ依頼するとのお話を聞いていたが、当時彼の国は日本より慌ただしい状況であり、業者と連絡がつかなくなってしまったそうである。
その後暫く時計をお預けしていたのだが、連絡取れずの状況は変わらなかった。結局預けてから5か月後の2020年の7月中旬に、時計はそのまま手元に戻ってきたのだった。
それから4か月ほど経過した2020年の12月中旬、ようやく業者と連絡が付くようになり、リダンが再開できるとのご連絡をいただいた。すぐさまお願いするとともに、時計を送った。
その後修理とリダンに1か月。キレイになって手元に戻ってきたのが、2021年の1月下旬というわけである。
時計を預けて数日、オーバーホール作業の状況をご報告いただいた。この時計、龍頭が抜けてしまう症状だったのだが、分解してみると巻芯の裏抑えが折れていたそうだ。ここよく折れるよね。
部品を交換後、洗浄注油を行い組み立て完了。錆もなく精度も問題ないとのことだった。
OHが完了し、文字盤待ちの状態での途中経過をご覧いただこう。

文字盤側から見たオーバーホール前のムーブメント。右下にある大きな金具が折れた巻芯の裏抑え。加えてところどころムーブメントに汚れが目立つ。

文字盤側から見た洗浄後のムーブメント。あらまぁなんてキレイなんでしょう。裏抑えを見ていただくと、折れていた個所がわかると思う。この部品は入手ができるらしく、お店で手配いただいたようだ。

裏蓋側から見たムーブメント。オーバーホールが終わった状態がめっちゃキレイ!。この時文字盤は韓国でリダン作業中。だが、この時点で既におさーんはルンルンであった。
というわけで前置きが長くなったが、この作業報告のあと、SSはまぐり弐号機は結局どうなったのか。ではどうぞドドン!。

※画像が暗かったので明度をあげています
ぬぅお!こんなキレイになったか!!。ロゴとかまんまだ。これは素晴らしい。
だが、3か所ほど気づいた点がある。
ひとつ目、石数の文字が小さくなった。どうでもいいといえばどうでもいいが、ある意味おさーんが拘ってきた部分でもある。まぁ「はまぐり」もマイナー前はこの大きさなのでこれ自体はさほど違和感はなく、自分で使うから問題ないか。
おそらくだが、この業者、ロードマーベル用の印刷用型を持っているのだろうと思う。その型の数字が小さいのだろう。SD文字盤マークの出来も良いし、ロゴの書体も数字の大きさを除けばよく出来ているのが幸い。

※画像が暗かったので明度をあげています
二つ目、写真ではわからないが、文字盤の銀の色味が強い。本物はもう少し白に寄っている感じ。まったく同じようになるとは当然思ってなかったのでまぁいいか。
三つ目、書体の再現度はよく出来ていると先に書いたが、6時上の文字表記部分の文字がやや太い。
これは気付きにくいがリダンの痕跡が出やすい顕著な部分だ。これはある意味どうしようもない部分なので、リダンとはそういうモノだと思う事にしている。
今のリダンは文字盤の写真を撮り、これにイラレ(Adobe Illustrator)などを使い画像修正を加えたものをベクタライスしてCADの版下データを作る。これを元に銅板にレーザーで文字盤のデザインを彫刻して印刷用の型を作る。多色になる場合は、色ごとにこの工程を繰り返し、1枚づつ印刷型を作るわけだ。
文字盤はインデックスが取り外され、洗浄され塗装が落とされる。乾燥後に下地処理を行い、文字盤色の調色と塗装が行われる。
文字盤の下処理ののち、型へインクを乗せ、タンポに写し取りパッド印刷でロゴその他を印刷。多色の場合は、1色毎に繰り返し印刷を行う。
最後に取り外したインデックスなどの部材を組み立て、漸く完成である。
実際に文字盤のパッド印刷の動画がYoutubeに転がっているので引用しておこう。
リダンはこんな手間がかかるので当然費用は高くなる。時計製造における文字盤製造の工程と何一つ変わらないからだ。
同じ文字盤を印刷するなら型は1つ作ればよいのでコストを下げられるが、1つの時計のために1つづつ型(しかも同じ型が二度と使用できるかどうかわからない)を起こすとなれば、結構なコストがかかるのも理解いただけるだろう。
当然カメラ・各種ソフトウェア・ハードウェア(レーザー彫刻機・塗装に関わる器具)の設備費用も割り戻されてコストに組み込まれる。文字盤色も1枚ごとに人手で調色と塗装が必要。
話を戻すが、型を作る際にレーザーやフライスでは細い文字の彫刻が難しいため、どうしても文字が若干太めになる。特に筆記体などの線が細いものに顕著に現れる傾向がある。これが繊細な筆記体などの文字が太くなる理由。
元の文字盤に繊細な文字が使ってあると、こればかりはどうしようもないのが実情だ。
昔は型の作製を全て手彫りで対応しており、細い刃物と力加減で問題無かったのだろう。勿論企業では今でも手彫りで行う事もあるかもしれない。ただ、個人の一点モノの作業ではとても無理なお話しである。
というわけで、三つほど不満な箇所を述べたが、一番気になるのは文字版色の件か。ロードマーベルを持っていて、現物をよく見ている人が見れば一発でわかる程度に違っているのと、ロゴの出来が良いだけに寂しいが、まぁこんなもんだろな。何せ値段が値段だし。
また、ここは改善もし易いところだ。もし次にお願いすることがあれば、気を付けてもらうこともできる。
リダンの結果はこのような感じだが、時計そのものは龍頭の裏抑えを交換したこともあり、とてもカッチリとした引き心地。併せて整備の結果、平均日差は+15秒だそうだ。
うん、これでこの時計も実用できるぞ。ありがたやありがたや。
実用時計としてはまぐり弐号機復活!
リダンも経験出来た。出来は最初に思っていた通りの結果に近かった。酷いものもよく見るが、文字の印字そのものに於いては思ったよりクオリティは良かった。
全体の出来としてはまた別の評価となるが。今後は適材適所で利用してみたい。
----
セイコー ロードマーベル(はまぐり弐号機)
製造年月:1960年9月
モデルナンバー:LM-2
キャリバーナンバー:なし(手巻)
ケースナンバー:J14038
ペットネーム:なし
石数:23石
振動数:18,000回/時(5振動)
ケース:SS
文字盤:SD
コメント
コメント一覧 (10)
喜んで時を刻んでくれると思います 自分がリダンして貰った時は
文字盤が綺麗(元々に)になりましたが リダン以前の焼けた文字盤が
好みだったので少しがっかりしました ロゴや文字だけリダンして
貰えば良かったと 以後文字盤の焼け具合に近くなる様にして貰って
います 個人の主観ですが
おさーん
が
しました
これなら外に連れ出そうという気にもなりますね。
あんまり下手くそなのはアレだけど、個人的にはリダンはアリだと思います。ガチガチのオリジナルよりむしろ使いやすいし^_^
おさーん
が
しました
いつもありがとうございます。
ホント時期が悪かったですね。まさかあんなことになるとは。
今回は初めて出したので、自分の希望などは伝えませんでした。次回お願いすることがあれば、好みも伝えてみようかと思います。
おさーん
が
しました
そうですね、ある意味気軽に使えます。中身もドナーが別になるので部品の心配もさほどないですし。
多少の汚れや劣化はなんともないですが、あまりに酷いのはやはりねぇ。
まぁそういうの買わなきゃいいのですけど、ドナーの活用などもできますしね。
ともあれ、勉強になりました。
おさーん
が
しました
おおっ!きれいじゃないですか。
こだわりのおさーんさんから見ればアレですが、着けていて気づく人は稀ですよね。
どうせ自己満足の世界の物なので、私も一度リダンにトライしてみたいと思いました。
おさーん
が
しました
リダン、とても興味深く拝読させていただきました。
私は自分で使用するものに関しては自己責任にてリダンするのは賛成です。反対にリダンされていることを隠されたままでの入手はしたくないものです。つまりリダン品を入手したくはなく、やはり多少のダメージがあってもオリジナルに拘りたい気持ちが正直ありますね。
そんな私なのですが、実は手持ちのもので唯一リダンしたいと思うものが一つだけあります。今でもずっと悩んでいる私にとってはおさーんさんのこの一連の記事にとても刺激をうけました。
おさーんさんのように好きだからこそ、オリジナルとの細かな差異に気付いてしまいます。そこが納得できるか出来ないか、結果はやってみないと分からない博打みたいなものですよね。私も好きだからこそその微妙な差異に納得しないであろう自分が想像できるのですよね。リダンというその一歩がなかなか踏み出せないままではいます。
今回のようにその判断を英断してしまうおさーんさんには感服ですし尊敬もしてしまいます。
それはそうとして、マーベル系の裏押さえのアーム折れですが、珍しいですね。
私も結構この年代の本中三針をメンテはしてきていますが、マーベルやクラウン系は結構アーム強い印象です。因みにこの時期のものでしょっちゅう折れているのが見つかるのはオリエント製品です^^
おさーん
が
しました
いつもありがとうございます。
確かに写真だとかなり出来が良いんですよ。書体とか良く出来ています。ちょっと太い以外はね。ですが文字盤の色合いが写真には何故か映らないんですよね。
多分海豹さんもリダンした実物見たらわかると思いますよ。
おさーん
が
しました
いつもありがとうございます。
おっしゃる通りで、リダンした物は出さないか、出す時に必ずリダン品と明記するのがリダンを実施した人の責任だと思います。
今回は実際はどんな物だろうと、実験的な実施が目的でしたので、出来に対してさほど後悔も悔しさもありませんでした。ですが、思ったより文字の出来が良かっただけに、文字盤色で手抜くなよと思っちゃいました(笑)
唐獅子さんの気持ちはとても理解出来ます。些細な事が気になるのは私も同じです。
なので、なんの経験もないのですが、自分で出来ない物かとめちゃくちゃバカな事も考えていたりします。まぁ自分でやってしくじったら諦め付くかと思って。
ですが、リダンはホント噂もホームページに出ている写真も当てにならないと思いました。本当にやるかどうか判断するために、テストで一度やってみるような感覚でした。
おっしゃる通り、ホントやって見ないとわからないですね。
裏押さえですけど、マーベル系では珍しいのですか?
もうひとつはまぐりで、竜頭の滑る感触から、折れているのではないかと思われるものがあります。別個体でクロノスも折れていたので、結構頻繁に折れる物かと思っていました。
オリエントは弱いのですね。なるほどねぇ。
おさーん
が
しました
ロードマーベルの記事を拝見させてもらいましました。こちらと同じJ14038をリダンしようと思い、来週18日に東京上野にある小島商店というお店に直接お伺いしに行く予定です。なお、リダンに関しては韓国の方に外注するとの説明をメールにて受けました。文字盤の色味や、「23」の大きさ等、色々と聞いてみようと思います。大変興味のある記事が多いので、非常に参考になりました。ありがとうございます。
おさーん
が
しました
はじめまして。コメありがとうございます。(__)
そうですか。リダンされるのですね。今はほぼ韓国で外注ばかりになっているのではないかと思います。
色見などは多少融通利かしてくれる可能性もあるかとは思いますので、いろいろ聞いてみるのが一番ですよね。
ただ、写真と現物はかなり異なることと、完全一致は無理とお考えいただいた方が戻ってきたときに気持ちが楽かと思います。
うまくいきましたらまた是非教えてください。楽しみにしております。
またお暇ありましたら、過去記事に関わらずコメいただけると幸いです。
ありがとうございました。
おさーん
が
しました