さて、先週はアメリカ製懐中時計について、歴史的な背景や販売方法について前回お話した、アメリカ製懐中時計の目利きには、ムーブメントとケースを分けて考えなくてはいけない。よって、今回はアメリカ製懐中時計ムーブメントの基礎知識について記載し、次回はケースについてお話しようと思う。
今回は2回目で、ムーブメントの基礎的なお話だ。これ結構重いので長くなる可能性大である。
なお、アメリカ製懐中時計のムーブメントについては、POCKET WATCH DATABASEに詳細が記されており、そこにすべて書かれている。今回記載する内容はその情報をわかりやすくしたものであり、画像の多くも引用している。
では行ってみよう。

※以下画像のすべてはPOCKET WATCH DATABASE及びeBayから引用

1.時計のサイズについて

時計の大きさは文字盤径で測るのが習わしのようだ。日本は欧州のRigne(リーニュ)という単位を「型」に置き換えて使っているが、これも文字盤径を表す。アメリカは前回記載したように、s(サイズ)という単位を用いる。これも文字盤の大きさだ。サイズとミリの換算は以下を参考にしてほしい。




2.ムーブメントの時刻設定(Movement Setting)

現在は龍頭で設定するのが一般的だが、この当時は龍頭とレバーセットの2種類がある。古くはキーを使い設定するものがあるが、今手に入れやすいアメリカ製懐中時計では18サイズの古いものに限られるためここでは除外する。
  • ペンダントセット/ステムセット
    龍頭を引っ張り、龍頭を回すと時分針が動き時刻の設定が可能。龍頭の固定はケースに入っている四つバネと呼ばれる部品によるもの。

    PWDB-PendantSet

  • レバーセット
    ベゼルを外し、文字盤横にあるレバーを引っ張り上げることで時刻設定が可能になる、時刻設定は龍頭を回して行う。公認鉄道時計はこのタイプ。下図を見るとわかるが、レイルロード対応ケースは、レバーが引っ張り出せるようにケースに切り欠きが入っている。

    PWDB-LeverSet

3.ムーブメント構成(Movement Configration)

  • オープンフェイス
    12時位置に龍頭がくるタイプのムーブメント。。鉄道時計はオープンフェイスでなければならない。(例外もある)

    PWDB-Openface-Pocket-Watch

  • ハンティング
    3時位置に龍頭がくるタイプのムーブメント。
    PWDB-Keywind-Pocket-Watch

4.ムーブメントのプレートタイプ(Plate Type)

ムーブメントのプレートにはいくつかの種類がある。古くはフルプレートで後年ブリッジプレートが多く用いられた。ただし小さなサイズの時計は3/4スプリットプレートがほとんど。

  • フルプレート
    ムーブメント全面がプレートで覆われたもの。テンプのみが表に出ておりトレインはプレートの内側にある。古い18サイズはほぼこの造り。日本では出テンプとも呼ばれる。

    PWDB-Full-Plate-Movement


  • 3/4プレート
    ムーブメントの3/4がプレートで覆われたもの。後に3/4スプリットプレートに替わるため古い時計に限られる。フルプレートに比べ、テンプがプレートの下に入るため、ムーブメントを薄くできる。

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  • 3/4スプリットプレート
    3/4プレートが2つに分割されたもの。12サイズより小さい時計はほぼこれ。12サイズ以上でも多くの時計で採用されている。

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  • ブリッジプレート
    ブリッジ状にプレートが分割されたもの。1900年前後から登場してくる。部品の加工点数が多いため、12サイズより大きな時計のミドルグレード以上で多く使用された。

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  • 3/4ブリッジプレート
    3/4プレートとブリッジプレートが組み合わさったもの。採用している時計は少ない。

    PWDB-34-Bridge-Plate-Movement

5.ムーブメントの仕上げ(Movement Finishes)
  • 金メッキ(Gilt Finishes)
    初期のころの標準仕上げ。真鍮に金メッキを施したもの。後年は普及機に使われた。

    PWDB-Movement-Finish-Gilt

  • ニッケル(Nickel Finishes)
    普及機より上位のグレードで使用された。ニッケル無垢のプレート上にダマスキン装飾を施してあるのが特徴。

    PWDB-Movement-Finish-Nickel

  • ツートーン(Two-Tone Finishes)
    ニッケルに金箔を張り付け、研磨やダマスキン装飾で2色としたもの。手が掛かるため比較的高級な時計で採用された。非常に美しいムーブメントが多い。

    PWDB-Movement-Finish-TwoTone

6.ジュエルセッティング方法(Jwels Setting)
  • ブッシング(宝石なし)(Bushing)
    PWDB-Jewel-Settings-Metal-Bushing
    金属製のブッシュが埋め込まれた物。耐摩耗性に対し弱い。安価なボトムレンジに使われた。

  • フリクションセッティング(Friction Setting)
    PWDB-Jewel-Settings-Friction-Setting
    宝石を直接受穴に押し込んだもの。ネジによる固定なし。一般的に、工作精度が低いこの時代は、ネジ止めより精度に劣ると言われているが、キーストン・ハワードなどは、ハイグレードにもこの方法を積極的に採用し、鉄道時計規格を難なくパス。数多くの高精度な鉄道時計を世に送り出した。加えて、シャトンがない分、より大きな宝石を取り付けることで、高精度かつ豪華で贅沢な時計が作られている。こうした時計の宝石は見栄えが素晴らしい。

  • スクリューセット(Screw-Set)
    PWDB-Jewel-Settings-Screw-Set-Jewel-Setting
    石を押さえるためのシャトンをネジ止めで固定してあるもの。シャトンとプレートはツライチで設定されている。多くのメーカーで使用された方式。シャトンの材質の多くは真鍮。

  • レイズドスクリューセット(Raised Screw-Set)
    PWDB-Jewel-Settings-Raised-Screw-Setting
    シャトンが盛り上がっており、プレートより高くなっているシャトンがネジ止めされているもの。ハイグレードの時計に採用されており、材質に金無垢が使われていることが多い。金無垢が使われている場合は、レイズドゴールドセッティングあるいはゴールドセッティングと記載されたりする。
7.シングルローラーとダブルローラー

ダブルローラーは誤動作を防ぐための機能で、主に鉄道時計など信頼性を確保する必要のある時計のために開発されたが、実装はミドルレンジ以上の時計に幅広く使われた。
  • シングルローラー
    PWDB-Single-Roller
    ※天真を横から見た図
    PWDB-Single-Roller-Escapement
    ※脱進機の構造図

    シングルローラーは振り石だけで動作を制御する方式

  • ダブルローラー
    PWDB-Combination-Roller
    ※天真を横から見た図
    PWDB-Double-Roller-Escapement
    ※脱進機の構造図

    ダブルローラーは振り石の下にもうひとつガードピンのついたローラーが取り付けられており、アンクルが振り石から外れたりといった故障を防ぐ確実な動作のための機能。現代腕時計でこうした機能があるかどうかは知らんが、「大ツバ」「小ツバ」というふたつの呼び名があるローラーが天真に取り付けてあるようなので、おそらく同様な機能が実装されているのだろうと思う。

8.調整について


鉄道用途で時計を使うようになってからは組み上げ後の精度調整の重要度が増し、高精度な時計は工場での組み上げ後に精度調整が行われていた。加えて1800年代末に鉄道時計規格の制定時、精度調整が規定に盛り込まれたため、各メーカーは精度調整がなされた時計であることを”ADJUSTED”というムーブメント刻印で識別し、カタログでアピールするようになった。
精度調整は工数やコストがかかるため、低価格の時計や小型の時計には実施されない。また、精度調整が行われた時計には、メーカーを問わず”ADUSTED"という刻印がムーブメントに刻まれる。

輸入された時計には、”ADJUSTED”刻印のあるものとないもので関税率が違っており、調整されているものに対しわざわざ"UNADJUTED"といった刻印を付けて高税率をかいくぐるスイス製の時計があったそうな。

今では考えにくいのだが、この時代は、精度調整はエクストラなサービスと捉えられており、調整済みの時計はそうでないものと比べ高精度かつ高級なものと認識され、高価だった。

◆精度調整の項目
  • 温度:冷・暖の両方で調整される。鉄道時計規格の制定以降は、摂氏1.1℃と37.7℃で精度を担保する必要があった。
  • 等時性:ゼンマイの巻き上げ状態とほどけた状態の両方で正しく精度を担保する必要がある。
  • 姿勢:時計の姿勢に限らず精度を担保するための調整。3姿勢、5姿勢、6姿勢がある。6姿勢は鉄道時計規格の改定時に設けられたもので、以降の鉄道時計は全て6姿勢調整。

    3姿勢(3 Positions)
    ・ダイヤルアップ (平置き文字盤上)
    ・ダイヤルダウン (平置き文字盤下)
    ・ペンダントアップ(縦置き12時上)

    5姿勢(5 Positions)
    3姿勢調整に以下の姿勢調整が加わる
    ・ペンダントライト(縦置き12時が3時位置の姿勢)
    ・ペンダントレフト(縦置き12時が9時位置の姿勢)

    6姿勢(6 Positions)
    5姿勢調整に以下の姿勢調整が加わる
    ・ペンダントダウン(縦置き12時が6時位置の姿勢)
◆精度調整の刻印

精度調整は温度(冷暖)・等時性・姿勢の3つがデフォルトであるため、姿勢調整数のみを刻印するメーカーが多かったが、中には温度と等時性の調整項目を含め調整数を刻印するメーカーもあった。
ちなみに、以下3つは全て同じ調整を実施しているが、記載方法によって数字が異なるので騙されないように。姿勢調整数の刻印がないADJUSTED刻印は、温度・等時性・3姿勢調整であろうと思われる。
  • 姿勢数刻印のみの場合:温度(冷暖)・等時性・6姿勢調整
    6 POSITIONS

  • 調整数刻印の場合①:温度(冷暖)・等時性・6姿勢調整
    8 ADJUSTMENTS

  • 調整数刻印の場合②:温度を冷と暖に分けて刻印
    9 ADJUSTMENTS
なお、姿勢数の刻印は、19世紀末の鉄道時計規格制定以前はADJUSTEDのみが多く、規格制定以降は5POSITION、1920年以降で6POSITIONとなっていく。5姿勢と6姿勢の違いは龍頭下位置の調整だが、懐中時計で龍頭が下に来ることは普通に使っててほとんどない。このため5姿勢以上であれば充分とおさーんは思っている。


9.テンプについて

この時代のテンプは、温度に対する補正機能が組み込まれたものが一般的で、ブレゲが考案した巻き上げヒゲ(ブレゲひげとも言われる)に熱弾性の異なる2種類の金属を貼り合わせた天輪を用いたバイメタル切れテンプを使っていた。バイメタルテンプは天輪の断面を見ると金属が二層になっているのがわかる。チラネジは慣性を効かせるための重りだが、バランス調整用のネジ(ミーンタイムスクリュー)も取り付けられていた。

BalanceandSpring
Vintage Watchstrapsより引用

後年治金技術の進歩によって、極めて熱弾性の低い合金が開発された(インバー合金及びエリンバー合金)。これをひげゼンマイと天輪に用いることで、製造に手間のかかるバイメタルテンプが不要となった。こうした新たなテンプを使った時計がハミルトンやイリノイで後年製造されている(エリンバーモデル)。数が少ないことから値段が高くなる。

10.ダイヤル

ポーセリン
いわゆる琺瑯で出来ているダイヤル。焼き物なので落とせば割れる。ダイヤルの損傷が著しいものを避けた方が良い理由は、衝撃を受けていると思われるからである。ヘアライン(細いヒビ割れ)だけであれば経験上それほど気にしなくても良い。
なお、焼き物のダイヤルはスイス製のリプロ品が多く出回っており、オリジナルから替えられたものも多い。スイス製はダイヤルの裏を見ればわかる。
  • シングルサンクダイヤル
    秒針部分が別のダイヤルを半田付けし段差がつけられているもの。一般的なダイヤル。

    FullSizeRender

  • ダブルサンクダイヤル
    秒針部分に加え、ダイヤル真ん中にさらに丸いダイヤルを半田付けして段差が加えられているもの。シングルサンクに比べ手間が掛かっており、主にミドルグレード以上で用いられる。
    ただ、ハイグレードならば必ずダブルサンクかというと実はそうでもない。

    FullSizeRender

メタルダイヤル
1910年代後半以降の比較的新しい時代に使われたダイヤル。金属製でインデックスは植字などもある。アール・デコ時代に作られたものが多く、従来より前衛的なインデックスデザインのものが多い。
この時代は薄型時計が多く作られ、デコラティブなケースと共に懐中時計全体のデザインもまさにアール・デコといった様相。

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11.用語


英語で記載されたカタログや文献を見ていくと、どうしても単純な和訳では正しい意味を得られない時計用語がいくつか出てくる。おさーんもさんざん苦労したが、何かの役に立つかもなので、よく出てくるわかりにくそうなものをメモ程度でまとめておく。
  • Balance:テンプ
  • Balance Wheel:天輪
  • Balance Staff:天真
  • Bamking Pin:アンクルの振り止め、いわゆるドテピン
  • Berrel:香箱
  • Cap Jewel:伏石
  • Click:コハゼ
  • Compensation Balance:温度補正テンプ(この時代で言えばバイメタル切れテンプを指す)
  • Escape:脱進機
  • Escape Wheel:ガンギ車
  • Hands:時分針(針)
  • Hair Spring:ひげゼンマイ
  • Main Spring:ゼンマイ(香箱)
  • Micrometric Regurator:微動緩急針
  • Pallet Fork:アンクル
  • Pallet Fork Jewels:爪石(Pallet Stone表記のケースもある)
  • Regurator:緩急針
  • Roller Jewel:振り石
  • Train:輪転(主に2番車・3番車・4番車)
時計そのものの用語についてはPOCKET WATCH DATABASEより以下の画像を引用しておくので困ったときに確認しよう。

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