イリノイの二個目。前回手に入れたのはバンスペシャルだったが、今回はイリノイのサンガモだ。

◆イリノイ サンガモについて 1897 - 1913
サンガモはイリノイのハイグレードウォッチで、16サイズの公認鉄道時計。21石と23石に加え、極めて少数だが19石と25石もあったらしい。
サンガモは、一風変わった見た目のムーブメント構造を持つことと、ダマスキン装飾のパターンが多いのが特徴。特にその特徴的なムーブメント構造は、デザイナーであるFred I.Gettyに因み、”Gettty”(ゲッティ)モデルと呼ばれている。
サンガモはモデル4とモデル5の2モデルに渡って造られた時計で、1897年から1913年まで16年間製造された。その総数は両モデル合わせて33,520個。
総生産量のうち、約70%が21石で、残り30%が23石。19石と25石は1%未満と極々少ない。また、サンガモの80%はオープンフェイスで、ハンターは20%未満らしい。
ムーブメントには「Extra」または「Special」と記された少し贅沢な物も存在する。「Extra」は明るい斑点のダマスキン装飾が多く、「Special」は、主に金のダマスクパターンとなる模様。どうやら装飾が主な違いということらしい。
なお、以前紹介したバンスペシャルは、元々バンのアップグレードモデル。サンガモも同様なアップグレードモデルがある。こちらはサンガモスペシャルという時計で、サンガモ以降のイリノイにおけるトップグレード。
サンガモは趣味性が強く、製造総数もそれほど多くはないため格好のコレクションアイテムだが、イリノイの時計は、よりグレードの高いサンガモスペシャルやバンスペシャルに人気が集中。このためかサンガモ自体の価格は、現状比較的落ち着いている。その価格レンジは、21石だと少しお高めのオールドセイコー(キングセイコーあたり)と同程度。お求めやすく見栄えも良いと、なかなか興味深い時計なのだ。

◆入手の経緯
さて、おさーんが今回手に入れたのは、モデル15の21石。1902年製造の懐中時計だ。
なによりムーブメントの見た目にやられたことがこれを選んだ理由。
サンガモはさほど数も多くなく、しかもイリノイとあってヤフオクでは見かけない。よって、eBayを主戦場と定め投網を張っていた。よほどレアでない限り高騰の危険はなさげなので、相場よりお高めに価格設定し事前入札。ほぼ相場なりで落札し、国際郵便でお手元へ。
◆文字盤
公認鉄道時計なのでレバーセット。となればいつもの「ぽろん」でご挨拶。この時計、ムーブメントは鉄道時計だが、文字盤からもわかるように、民生用途で一般の人が使用したものと思われる。
(インデックスや針が太くなく普通のもの)

ダブルサンクの文字盤で、インデックスは手書きのエナメル。インデックス書体もなかなか良い感じ。12時下のイリノイロゴが大きくて良い。
ダイヤル表面には汚れが多少あるものの、目立つヘアラインはなく、総じて良好良い状態。針も多少の艶引けはあるが、こちらも錆び無し良い状態。

レバーは右に付いている。毎回時刻設定は蓋開けてレバー引いてと面倒だが、その手間こそが鉄道時計たる所以なのだよ。それくらい許すよ許す。
◆ケース
ケースはエングレービングが入ったオープンフェイスケース。ボックスヒンジのケースで、素材は20年ギャランティーの金張りだ。
ケース刻印を見ると、イリノイだのエリジンだの時計メーカーの名前が並び、なんぞこれと。この刻印付きケース、実はウォルサム以外で意外とよく見かけるもの。

ここに刻まれるエリジンやイリノイの名称は時計メーカーの名前ではなく、地名なのだからややこしい。イリノイの書体なんか本物そっくりこれええんか。
これは、イリノイ州エリジンに存在した、Illinois Watch Case Co.というケースメーカーの製品で、時計メーカーのエリジンやイリノイとは資本関係は全くなさげ。

その刻印から、メーカー名を連想させる紛らわしさからか、エリジンと訴訟合戦を繰り広げていたと聞く。だが、ウォルサム・エリジン・イリノイだってまんま地名を使ってるのだ。どっちもどっちな気がするが、とにかく紛らわしいことこの上ない。
加えてこのケース、イリノイウォッチケース社の製品だが、”Eligin Gaiant Watch Case Co.“という商標で売り出していたらしく、マジでやらかしてる感満載。社名でイリノイ先頭に持ってきたり、商標でエリジンを先頭に持ってきたりと、その思惑も見え隠れ。二番煎じであわよくば純正っぽくとか狙ってたのだろうとしか思えないおさーん(いつのながらの勝手な妄想)。
ウォルサムにこのケースが少ないのは、逆に他の時計から持ってきたケースと思われてしまうため、避けられたからではないのかと思う。

この手のボックスヒンジケースの定番で、裏蓋側も二重構造となっている。馬のマークが付いています。

NAWCCで調べたところによれば、”Eligin Gaiant Watch Case Co.“ブランドのケースは、20年保証ではあるが、10カラットの金張りらしい。まぁいいけどね、ボックスヒンジで状態も悪くないし。
◆ムーブメント
さて、ではおさーんがひと目で気に入ったムーブメント行ってみよう。2トーンはかなり美しいぞ!

どうよこれ。ウォルサムでもこういうのが無いわけではないが、わりと古い18サイズに多く、少なくとも後年のハイグレードで採用した例は聞かない。多少錆なども見られるが、美しい2トーンのムーブメント。
そして、先に述べた特徴的な見た目のゲッティモデルだ。
ウォルサム含む、普通のムーブメントと比較すれば一目瞭然なので、サンプルを並べてみよう。

※Waltham Vanguard Model1907 16s 23J
少し前に登場した、インジケーター無しのヴァンガードにご登場いただいた。表に見える巻き上げホイールの数が違うのがお分かりか。内部の造りがわからんので、どうなってるのかわからんが、これが見た目一発でわかるゲッティモデルの特徴だ。
では、少し見た目でご紹介していこう。3/4スプリットプレートなので、プレート面が広く、またこのツートーンが映える映える。実はサンガモにはこのプレート以外に、3/4ブリッジプレートのモデルもある。3/4ブリッジプレートとは、3番車、4番車、ガンギにそれぞれ独立したブリッジが付くもの。ちょうど指を3本並べた形に酷似するため、3フィンガーなどと呼ばれたりもする。
なお、スプリットプレートがバージョン1、ブリッジプレートがバージョン2と区別されている。
実際に見た感じとしては、ジュエルは全てルビーだが、テンプとガンギの伏石はなかな見事。バンスペシャルと同様、トレインがフルゴールドだ素晴らしい。
プレートの2トーンとゴールドがとても良く調和しており、さらに贅沢さが増している感。いいわーこれ。
◆カタログから
ではカタログいってみよう。1904年のカタログだ。前回紹介したバンスペシャルに比べるとシンプルな内容だ。

意訳を付けるまでもないシンプルさだが、一応恒例なのでやっとくか。
サンガモ 23石
次にこちら上記カタログより2年前、1902年のプライスリストの一部抜粋。ムーブメント単体の価格。この時代バンスペシャルはまだ18サイズのみ。ボトムレンジとミドルグレードも並んでいるので、ハイグレードがいかに高いかよくわかると思う。
つーか、上のカタログプライスと見比べると、たった2年で価格が4倍くらいになってますね。なんだこれ。

◆最後に
今回のサンガモもイリノイのクオリティを具現化する質の高い時計だと思う。価格も手ごろなのだが、いかんせん数が少なく入手がつらい。お勧めとなれば、やや高めとはなるが、入手もしやすいバンスペシャル21石が筆頭かと思う。なお、ゲッティモデルはなかなか面白いので、機会があれば違うダマスクパターンをを狙ってみたい。
イリノイはハミルトンへ買収され、年代が進んでもクオリティに変わりはなさげだ。ウォルサムは同じ銘の時計でも、新・旧のクオリティがかなり違い愕然とすることもあるが、こうしたことがないのはとても良い。
----
メーカー・モデル:Illinois Sungamo
製造年:1902年
モデルナンバー:Model 5 Version1
グレード:Sungamo
生産数量:26,135個
キャリバーナンバー:1602446(手巻)
サイズ:16s(43.18mm)
石数:21石
ムーブメントタイプ:オープンフェイス
ムーブメントセット:レバーセット
振動数:18,000/時(振動)
ケース:Illinois Watch Case Co.・”Eligin Gaiant Watch Case Co.”・10KGF・20年保証・オープンフェイスケース
文字盤:ダブルサンク・エナメル文字盤

◆イリノイ サンガモについて 1897 - 1913
サンガモはイリノイのハイグレードウォッチで、16サイズの公認鉄道時計。21石と23石に加え、極めて少数だが19石と25石もあったらしい。
サンガモは、一風変わった見た目のムーブメント構造を持つことと、ダマスキン装飾のパターンが多いのが特徴。特にその特徴的なムーブメント構造は、デザイナーであるFred I.Gettyに因み、”Gettty”(ゲッティ)モデルと呼ばれている。
サンガモはモデル4とモデル5の2モデルに渡って造られた時計で、1897年から1913年まで16年間製造された。その総数は両モデル合わせて33,520個。
総生産量のうち、約70%が21石で、残り30%が23石。19石と25石は1%未満と極々少ない。また、サンガモの80%はオープンフェイスで、ハンターは20%未満らしい。
ムーブメントには「Extra」または「Special」と記された少し贅沢な物も存在する。「Extra」は明るい斑点のダマスキン装飾が多く、「Special」は、主に金のダマスクパターンとなる模様。どうやら装飾が主な違いということらしい。
なお、以前紹介したバンスペシャルは、元々バンのアップグレードモデル。サンガモも同様なアップグレードモデルがある。こちらはサンガモスペシャルという時計で、サンガモ以降のイリノイにおけるトップグレード。
サンガモは趣味性が強く、製造総数もそれほど多くはないため格好のコレクションアイテムだが、イリノイの時計は、よりグレードの高いサンガモスペシャルやバンスペシャルに人気が集中。このためかサンガモ自体の価格は、現状比較的落ち着いている。その価格レンジは、21石だと少しお高めのオールドセイコー(キングセイコーあたり)と同程度。お求めやすく見栄えも良いと、なかなか興味深い時計なのだ。

◆入手の経緯
さて、おさーんが今回手に入れたのは、モデル15の21石。1902年製造の懐中時計だ。
なによりムーブメントの見た目にやられたことがこれを選んだ理由。
サンガモはさほど数も多くなく、しかもイリノイとあってヤフオクでは見かけない。よって、eBayを主戦場と定め投網を張っていた。よほどレアでない限り高騰の危険はなさげなので、相場よりお高めに価格設定し事前入札。ほぼ相場なりで落札し、国際郵便でお手元へ。
◆文字盤
公認鉄道時計なのでレバーセット。となればいつもの「ぽろん」でご挨拶。この時計、ムーブメントは鉄道時計だが、文字盤からもわかるように、民生用途で一般の人が使用したものと思われる。
(インデックスや針が太くなく普通のもの)

ダブルサンクの文字盤で、インデックスは手書きのエナメル。インデックス書体もなかなか良い感じ。12時下のイリノイロゴが大きくて良い。
ダイヤル表面には汚れが多少あるものの、目立つヘアラインはなく、総じて良好良い状態。針も多少の艶引けはあるが、こちらも錆び無し良い状態。

レバーは右に付いている。毎回時刻設定は蓋開けてレバー引いてと面倒だが、その手間こそが鉄道時計たる所以なのだよ。それくらい許すよ許す。
◆ケース
ケースはエングレービングが入ったオープンフェイスケース。ボックスヒンジのケースで、素材は20年ギャランティーの金張りだ。
ケース刻印を見ると、イリノイだのエリジンだの時計メーカーの名前が並び、なんぞこれと。この刻印付きケース、実はウォルサム以外で意外とよく見かけるもの。

ここに刻まれるエリジンやイリノイの名称は時計メーカーの名前ではなく、地名なのだからややこしい。イリノイの書体なんか本物そっくりこれええんか。
これは、イリノイ州エリジンに存在した、Illinois Watch Case Co.というケースメーカーの製品で、時計メーカーのエリジンやイリノイとは資本関係は全くなさげ。

その刻印から、メーカー名を連想させる紛らわしさからか、エリジンと訴訟合戦を繰り広げていたと聞く。だが、ウォルサム・エリジン・イリノイだってまんま地名を使ってるのだ。どっちもどっちな気がするが、とにかく紛らわしいことこの上ない。
加えてこのケース、イリノイウォッチケース社の製品だが、”Eligin Gaiant Watch Case Co.“という商標で売り出していたらしく、マジでやらかしてる感満載。社名でイリノイ先頭に持ってきたり、商標でエリジンを先頭に持ってきたりと、その思惑も見え隠れ。二番煎じであわよくば純正っぽくとか狙ってたのだろうとしか思えないおさーん(いつのながらの勝手な妄想)。
ウォルサムにこのケースが少ないのは、逆に他の時計から持ってきたケースと思われてしまうため、避けられたからではないのかと思う。

この手のボックスヒンジケースの定番で、裏蓋側も二重構造となっている。馬のマークが付いています。

NAWCCで調べたところによれば、”Eligin Gaiant Watch Case Co.“ブランドのケースは、20年保証ではあるが、10カラットの金張りらしい。まぁいいけどね、ボックスヒンジで状態も悪くないし。
◆ムーブメント
さて、ではおさーんがひと目で気に入ったムーブメント行ってみよう。2トーンはかなり美しいぞ!

どうよこれ。ウォルサムでもこういうのが無いわけではないが、わりと古い18サイズに多く、少なくとも後年のハイグレードで採用した例は聞かない。多少錆なども見られるが、美しい2トーンのムーブメント。
そして、先に述べた特徴的な見た目のゲッティモデルだ。
ウォルサム含む、普通のムーブメントと比較すれば一目瞭然なので、サンプルを並べてみよう。

※Waltham Vanguard Model1907 16s 23J
少し前に登場した、インジケーター無しのヴァンガードにご登場いただいた。表に見える巻き上げホイールの数が違うのがお分かりか。内部の造りがわからんので、どうなってるのかわからんが、これが見た目一発でわかるゲッティモデルの特徴だ。
では、少し見た目でご紹介していこう。3/4スプリットプレートなので、プレート面が広く、またこのツートーンが映える映える。実はサンガモにはこのプレート以外に、3/4ブリッジプレートのモデルもある。3/4ブリッジプレートとは、3番車、4番車、ガンギにそれぞれ独立したブリッジが付くもの。ちょうど指を3本並べた形に酷似するため、3フィンガーなどと呼ばれたりもする。
なお、スプリットプレートがバージョン1、ブリッジプレートがバージョン2と区別されている。
実際に見た感じとしては、ジュエルは全てルビーだが、テンプとガンギの伏石はなかな見事。バンスペシャルと同様、トレインがフルゴールドだ素晴らしい。
プレートの2トーンとゴールドがとても良く調和しており、さらに贅沢さが増している感。いいわーこれ。
◆カタログから
ではカタログいってみよう。1904年のカタログだ。前回紹介したバンスペシャルに比べるとシンプルな内容だ。

意訳を付けるまでもないシンプルさだが、一応恒例なのでやっとくか。
サンガモ 23石
- 23個のルビーとサファイア
- ゴールドセッティング(シャトン)
- 等時性・温度・6姿勢調整
- スチール製ガンギ
- ゴールドトレイン
- 21個のルビーとサファイア
- 等時性・温度・6姿勢調整
- スチール製ガンギ
- ゴールドトレイン
次にこちら上記カタログより2年前、1902年のプライスリストの一部抜粋。ムーブメント単体の価格。この時代バンスペシャルはまだ18サイズのみ。ボトムレンジとミドルグレードも並んでいるので、ハイグレードがいかに高いかよくわかると思う。
つーか、上のカタログプライスと見比べると、たった2年で価格が4倍くらいになってますね。なんだこれ。

◆最後に
今回のサンガモもイリノイのクオリティを具現化する質の高い時計だと思う。価格も手ごろなのだが、いかんせん数が少なく入手がつらい。お勧めとなれば、やや高めとはなるが、入手もしやすいバンスペシャル21石が筆頭かと思う。なお、ゲッティモデルはなかなか面白いので、機会があれば違うダマスクパターンをを狙ってみたい。
イリノイはハミルトンへ買収され、年代が進んでもクオリティに変わりはなさげだ。ウォルサムは同じ銘の時計でも、新・旧のクオリティがかなり違い愕然とすることもあるが、こうしたことがないのはとても良い。
----
メーカー・モデル:Illinois Sungamo
製造年:1902年
モデルナンバー:Model 5 Version1
グレード:Sungamo
生産数量:26,135個
キャリバーナンバー:1602446(手巻)
サイズ:16s(43.18mm)
石数:21石
ムーブメントタイプ:オープンフェイス
ムーブメントセット:レバーセット
振動数:18,000/時(振動)
ケース:Illinois Watch Case Co.・”Eligin Gaiant Watch Case Co.”・10KGF・20年保証・オープンフェイスケース
文字盤:ダブルサンク・エナメル文字盤
コメント